Saori@destiny「WOW WAR TECHNO」

 レボリューション始動前日にこの歴史的傑作をレビュー。

 Perfume以降エレクトロやテクノ・ハウスとアイドルの組み合わせは飽和状態にあります。洋楽のネタ元も含めて作り手がどういう仕掛けで音を作っているのか、簡単に分かってしまう音楽がほとんどです。しかし、このアルバムは、「WOW WAR TECHNO」というタイトルやTRFのカバーが収録されている所で小室哲哉を意識している事以外は、非常に個性的かつ現代的にかっこいいダンス・ミュージックになっています。

 このアルバムを初めて聴いた時、非常に良いものであるというのは分かりましたが、それをどう表現したらいいのかすぐには分かりませんでした。非常にアクが強く、そのうえ、サウンドの元ネタが分かりにくいため、自分の音楽的ストックの中での置き場所に困ってしまったからです。

 例えばタイトルトラックの「WOW WAR TECHNO」は、重いキックや太く歪んだシンセベースの上にProducerのTerukadoと思われるおっさんくさい(失礼)男性の声のサンプリングが鋭いリズムでフレーズを連発してくる合間に、Saoriの柔らかい声のボーカルがからまるという構造になってます。大サビ(?)にあたる部分では、テレビなどで放送禁止用語を消すためのピーという音がフレーズとして入ってきます。

 初めて聴いたときには、なんじゃこりゃと困惑し、「悪ふざけが過ぎる」と苦笑してしまいました。でも気を取り直して(笑)聴き続けると、これが実にかっこ良く感じられて気持ち良くなって来ます。

 また、この曲のPVも、CDのパッケージ・デザインやビジュアル・イメージも「悪ふざけ」という意味で(笑)、コンセプトが統一されています。

 Perfumeがアイドルだけれとかっこいいという意味で革新的だったとすると、このアルバムは、更にかっこいいとダサいの境界を破壊する領域まで攻め込んだと言えます。

 それから、特筆すべきこととして、Saoriの自作の歌詞がすばらしいです。巧みに韻を踏んでいたり、イメージを豊かに喚起させる言葉使いが技巧的でさえあります。私のように洋楽を普通に聴く人間は、音の響き以外にあまり歌詞に注意を払いませんが、何かのきっかけに歌詞に注意が行ったり、そこから歌詞カードを読み込んでみたりすると、一粒で何度もおいしくこのアルバムを味わうことができます。

 正直、ミリオンセラーになるような種類の音楽ではありませんが、限られた好事家にしか知られていないのはもったいない傑作です。


WOW WAR TECHNO

WOW WAR TECHNO