2018年07月07日のツイート

最初の出会いはこのMVだった。
ウワノソラ - Umbrella Walking

2013年後半から2014年始め、いわゆる、シティポップ・AORの再ブームが始まるかまだ始まっていないかぐらいだったと思う(今はもう終わったのかな?)。私は、いわゆる渋谷系に対して個人的にアンビバレントな感情があるのだが、この曲には衝撃を受けて、普段はそんなことはしないのだが、思わずコメント欄に書き込んでしまった。曲も素晴らしかったし、映像も雰囲気もとても良かった。借り物的な所や嫌味な所がなくて、自然に血肉化している。これぞ、アンファンテリブル。

その後、しばらく間があって、この曲がアルバムから先行で公開された時にはさらに期待が高まった。「Umbrella Walking」が太陽なら、「恋するドレス」は月。映像の最後に、いえもとさんが冬の日本海(勝手にそう思っている)にたどり着き、二人のメンバーに再会するオチ(?)も好き。
ウワノソラ - 恋するドレス

話は少し飛ぶ。

2017年6月、ウワノソラの二人のソングライターの片方、桶田知道がグループを脱退して、1stソロアルバムを発表したと知る。ウワノソラとは全く違って打ち込み系の音らしい。
桶田知道 - "丁酉目録"ダイジェスト

桶田知道 - チャンネルNo.1

陸の孤島の電子歌謡」。このアルバムのキャッチコピーや桶田さん自身のデザインのジャケットにも惹かれたが、アルバムの説明は本当にこのキャッチコピーに集約されていると思う。曲もアレンジも素晴らしいのだが、あくまでキャチーなメロディを持った歌物。桶田さんのボーカル曲は「YMOをバックにキリンジの曲を歌の上手い小山田圭吾が歌う」、そんなイメージである。いえもとさんのボーカル曲は、坂本龍一アレンジの大貫妙子のヨーロッパ三部作を彷彿とさせる瞬間もある。
最後の曲「歳晩」では、はっぴいえんど「春よこい」の怨念の世界が、21世紀の奈良の地で成仏したようなユーモアを感じる。
とにかく中毒性がある傑作である。私は元々、プレーヤーが実際に演奏している音楽の方が好きなのだが、このアルバムを聴いてからしばらくは打ち込み系の音楽ばかり聴くようになってしまった。

そして1stから1年ほどのインターバルで、桶田知道の2ndアルバムが出た。
桶田知道 2nd Album『秉燭譚』ダイジェスト

桶田知道 - トラッカーズ・ハイ

今度のキャッチコピーは、『「陸の孤島の電子歌謡」と「吐き違えたノスタルヂー」の昇華』。
アルバムを聴いた後に読むと、これも上手い表現だなあと唸ってしまう。1stと同じ打ち込み系の音なので、延長線上にあると言えば、そうも言えるが、ある意味かなりの変化もあった。

1stにもあったシンガーソングライター的内省的な佇まいがさらに強まり、アルバムの統一感が増している。今作は別の作詞家が歌詞を書いているが、歌詞を書いた岩本孝太氏が詞を先に書いてリードして行ったことも大きいようだ。驚くべきは詞が先で作曲が後らしい。どうやったら、あの歌詞にこんなキャッチーなメロディを付けるられるんだろう?*1

「乙女の論理」でおやっと惹かれ、インスト曲「篝」を挟んで、「映寫技師ヒューゴ」で霧が出てきて景色が変わる流れが特に好き。(この曲の桶田さんのボーカルはPet Shop Boysみたいだが、曲のリズムはレゲエ。)インスト曲にも無駄なフレーズが一切ない。最後の「砂の城と薊の花」は弦のオーケストレーションが印象的だが、弾き語りの曲にも聴こえる。打ち込みか生演奏か、グループか個人かを超越したような大団円。素晴らしい映画を観たような余韻を残してアルバムは終わる。

1stもそうだが、ぜひアルバム全体として聴いてもらいたい。


最後に話は戻る。

「秉燭譚」と一緒に同じCD店でウワノソラの2nd「陽だまり」を買った。
ウワノソラ - 夏の客船

1stに収録されなかった「Umbrella Walking」の正式な音源が欲しいという気持ちはずっとあったが、通販でCDを買うのはやっぱりちょっと面倒臭い(笑)。そのためこのタイミングでやっと入手して初めてアルバム全体を聴くことになった。
結論から言うと、もっと早くから聴くべき傑作だった。曲もボーカルも演奏もアレンジも録音もあらゆる面で1stを凌駕していた。特にブラジル/MPBやJazz/クロスオーバーの影響が感じられるところが個人的なツボに入った。
パールブリッジを渡ったら」の間奏は Herbie Hancockを思い出し、単体で聴いた時、少し地味に感じた「夏の客船」はアルバムの流れでよく聴くと、いえもとさんのボーカルがユーミンのようにも聴こえる。
こちらのアルバムも全体として聴かなければ、その魅力が伝わりにくいかもしれない。
桶田さんと角谷さんとの共作「打ち水」の素晴らしさは、三人組のウワノソラが持っていた(今も持っていると思いたい)可能性の大きさを感じさせる。

「Umbrella Walking」を初めて聴いた時に感じた、「こんな若い人達が、古き良き音楽を血肉化し、自分の個性にしている」と感じたことはやはり間違っていなかったと確信した。
そして、自分より若い人に昔の音楽を教えてもらう時代になったことをちょっと悔しく少し嬉しいと思うようになった。

*1:もっと驚いたのは一人の時も元々詞先だったらしい。https://www.kouhando.com/khdr001-int